「師匠、お帰りなさい。どうでした?」

 リアムは心配そうに彼を見た。何しろ、結婚が許されなければ自分をおいて出ていくと平気で言っていた。もし、王様が許してくれなかったら自分がセシルの結婚を許して頂けるよう王様か王太子様に働きかけようと思ったのだ。

 「ああ、最初反対されたが、国のことをきちんとやるという当たり前の条件付きで許された。だが、オスカー様は未だに大反対だ」
 
 「やっぱり……まあ、オスカー様が何を言おうと、王様がお許しになればそれでいいじゃないですか!」

 「……いや、そうとも言えない。いずれ、何かしてくるだろう」

 「……え?」

 「それより、リリーはどこだ?」

 「ああ、彼女なら森の外れの馬場です。彼女、あそこの持ち主のタイラーの一家と仲良しなんですよ。一度、薬と野菜や山羊のミルクを交換してもらってから、すっかり子供達とも仲良くなったらしくて……乗馬をケビンに教わっているそうです」

 「……ケビン?誰だそれ?」

 「タイラーの長男ですよ。奥さんが病で亡くなってしまって、子供を両親と一緒に育てているんですよ」

 「ああ、そう言えば一度病を見てくれと頼まれたな。すでに衰弱がひどくて助けられないと言ったら狂ったように怒っていた」

 セシルは茶髪のがっしりとした体格のケビンにすごまれて、驚いたのを思い出した。酪農もしているから、ケビンは体つきがいい。

 「……ケビンと乗馬の練習?まさか……」

 リアムは彼の言うところを認識し、青くなった。

 「だ、大丈夫ですよ、師匠。心配するようなことはありませんから……リリアーナは師匠一筋です!何しろ帰るところもないんですよ。師匠に頼ってここにいるんですからね」

 すると、セシルは腕を払い、シュッとマントを身体に巻き付けて指を立てて呪文を唱えた。あっけにとられているリアムを前に、姿を消してしまった。

 「……師匠。人が変わったな。リリアーナもこれじゃ大変だ」