セシルは水筒の水を彼女へ渡した。そして、常備食を布に広げてふたりで食べ出した。

 「ここは、この国の北の森だ。妖魔が多い。間に合って良かった。お前に何かあったら、王太子を八つ裂きにするところだった」

 「ふふふ。セシルったら。王太子は無事?」

 「ああ。あんなのがこの国の王太子とは、この国もだめだな。どこかへ行くか……」

 セシルの横顔を見ながらリリアーナは答えた。

 「それもいいかもね。セシルならどこでも雇ってもらえそうだし、別に雇われなくても色々出来るから生きていけるわね」

 「……リリー」

 「何?」

 「現代というところへどうしても帰りたいのか?」

 セシルは思いきって聞いてみた。もう、彼女を離したくない。はっきりわかった。
 
 実は、魔法本を調べて異空間への転移に関する手がかりは見つかった。だが、彼女を帰したくないから何も言っていなかったのだ。

 リリアーナは下を向いて、小さな声で話し出した。
 
 「……私ね、最近は現代にいたことを忘れていることが多いの。戻りたくないわけではないの。ただ、戻れなくてもいいかなと思っている。セシル達のお手伝いもとても勉強になるし、何よりこの生活が楽しい。もちろん、セシルやリアムが許してくれたらだけどね」

 セシルは彼女を抱き寄せた。

 「お前をどこにもやりたくないんだ。俺の側にいて欲しい。これからもずっと……」

 そう言うと、彼女の顔を見ているうちにお互いが近づいて、自然とキスをした。
 
 その夜はセシルのマントに包まれて、リリアーナは安堵と疲れでいつの間にか眠りについていた。
 
 セシルは彼女を抱きしめながら、初めて幸せを感じていた。
 
 そして、リリアーナと共に生きていくと決心したのだった。