セシルは両手を握りしめ、祈るようにしていた。一時間半は経った。セシルが水を飲んで戻ってきたときだった。

 石にうっすらと黒い模様が浮き出しはじめた。セシルは立ち上がり、じっと石を見つめている。
 
 徐々に黒い模様がはっきりし出した。良かった。おそらくこの国の中だ。だが、かなり北のほうだ。北は森が多い。夜になると危険だ。

 セシルは急いで石を持ち上げ、呪文を言いながら自分のマントで身体を隠した。

 青いオーラが立ちこめ、瞬時に石と一緒にセシルの姿が消えた。

 転移が終わった。
 
 セシルがマントを広げると、目の前に湖が広がっている。
 
 動物の咆哮が聞こえた。びっくりして、振り向くとそこには湖の岸で座り込んで眼をつむっているリリアーナがいた。
 
 今にも飛びかかりそうな妖魔のギグスが彼女へ向かっていく。

 セシルはとっさに袋から光球を取り出してギグスへ投げつけた。当たった瞬間、眼を覆わんばかりの光線が辺りに満ちた。すごい声を上げてギグスが森へ帰っていく。

 その隙にリリアーナへ駆け寄ると、彼女を抱きかかえてマントで覆い、小さく転移した。

 「……おい、リリー。大丈夫か?リリアーナ!」

 彼女はぼんやりと腕の中で目を開けた。

 「……セシル?セシルなの?」

 「ああ。大丈夫か?無事で良かった……」

 セシルは彼女をぎゅっと抱いた。

 リリアーナはセシルの身体に包まれて、ほっとしたのか涙を流した。

 「う、うう、うう……怖かった、怖かったよう」

 そう言って、震えながら泣き出した彼女をセシルは優しく抱いて背中をさすってやった。

 「よく頑張った。そしてきちんと言われたことを実践したんだな。えらかった」