「おい、セシル」王太子が声をかけた。

 セシルは無言だ。

 「し、師匠……」

 「……なんだ?」

 セシルの様子が変なので、王太子は驚いた。

 「な、なにか手伝うことがあれば追跡隊を出すが。俺のせいで死んだとあれば寝覚めが悪いしな」

 セシルが立ち上がり、振り向くとじろりと王太子を睨んだ。王太子は見たこともないオーラがセシルの周りに漂っているのを見て、一歩下がった。

 「……彼女に何かあったら王太子様といえど許しませんよ。あそこでむやみにものに触ったり、歩いたりしないように言いましたよね」

 「……お、お前。なんだその口のきき方は……」

 リアムはセシルが本気で怒っているのを初めて見た。そして、青い魔道師のオーラが立ち上っているのを見て、これはまずいと判断した。

 「王太子様、僕がお送りしますのでこの部屋を出ましょう」

 そう言って、王太子の腕を引っ張って、ひきずるようにドアへ向かった。
 そして、出るときに振り返るとセシルに言った。

 「もし、見つかったらすぐに転移してください。あとのことは僕がやります。武装してくださいね」

 「ああ、頼む」

 セシルは我に返るとリアムを見た。

 セシルはうなずいて、王太子を連れて森の中へ歩いて行った。

 セシルは頭をかきむしり、すぐに出られるよう準備をしだした。
 必要な魔法具や武装道具、そして水や保存食を身体に下げて、マントを羽織った。

 石へ向かった。まだ、白いままだ。彼女が血を垂らしてくれたら、反応がある。それをセシルが魔道で関知しうる場所ならすぐに転移するのだ。

 「……頼む。リリー、無事でいてくれ」