「いや。粗末な服を着ていた。女?もしかして……」

 「あなたを庇った。考えればわかるはずです」

 「……まさか、リリアーナなのか?」

 「姿を隠すのに使う粉ですが、あの粉は大量に浴びると転移をすることがある。彼女はどこかへ飛ばされたんだ。早く助けないと日が暮れる」

 俺は王太子をそこへ置き去りにして、上の階へ走った。
 リアムが心配そうに見ている。

 「リアム、大変だ。リリアーナがノームの粉を全身に浴びて、姿が消えた」

 「ええ?!」

 「棚にぶつかった王太子様を突き飛ばして、自分が壺の下になったんだろう。全部の粉を被ったらしい」

 リアムは手を口に当てて青くなっている。

 「ど、どうするんです?あんなに大量に浴びたら、身体大丈夫なんですか?」

 「おそらく、いったん身体が消えて転移してから実体化するのに二時間くらいはかかる。まずいな。日が暮れてしまう」

 「彼女、カラムの石を首から下げてました。師匠、使い方教えてあるんですよね?」

 「ああ。教えてある。渡しておいて良かった。まさか、こんなことになるとはな……」

 「それにしたって、とにかく師匠のカラムの石を……」

 「ああ。すまん、王太子様をほっぽって来てしまった。迎えにいってくれ」

 すると後ろから声がした。

 「もうここに来た。リリアーナを助けられるのか?」

 王太子様がリアムを見て言う。

 「はい。彼女が師匠に言われたことを覚えていて、実践出来ればのはなしです。それと、どこまで飛ばされたのかわからない。こちらから追跡できる範囲ならいいんですが……」

 セシルは自分のカラムの大きな石を持ってきて、見つめている。真っ白で何の変化もない。まだ気がついていないならいいのだが、何か彼女にあったらと思うとセシルは怖かった。