『この粉は一瞬身体を隠したりすることが出来るんだけど、粉を使える気象条件が結構ある。粉を使いすぎると転移することもあるから気をつけないといけないんだ』

 もしかして、転移した?あの壺の粉全部被ったんだもんね。相当な量だったと思う。間違いない。絶対そうだ。

 空を見る。日の陰り方から考えて、結構時間が経ってる。王太子様が来たのは確か昼前だった。

 あれから転移して気を失っていた時間が一時間から二時間と考えるともうすぐ夕方になってしまう。こんなところで夜になったら、危なすぎる。

 セシルからも夕方以降は外に、森へ行くなと言われていたのに。妖魔が出るとか言っていた。
 
 「怖いよー。セシル。助けて……」

 気がつくとセシルと何度も口にしていた。口にするだけで、お守りのような気持ちになる。

 でも、セシルが助けてくれなかったらと考えると急に怖くなって、涙が出た。

 とにかく、森を抜けよう。それから考えようと思い、手近な木に登った。
 私は田舎育ちだから、結構木登り得意。

 見渡せる所まで登ると、一キロも南へ行くと森が切れて、湖が見えた。

 とにかくそこまで行けば何とかなるかも知れない。私は急いで降りると、その方向へ走り出した。

 日が陰る頃にようやく湖の所へ出た。途中で果物や木の実、食べられそうなキノコを採りながら来た。

 ここに来て生活に慣れていたから出来たこと。すぐに飛ばされていたらどうなっていたかわからない。
 
 良かったと前向きに考えた。

 そして、湖の水を飲んで、果物などを食べて腹ごしらえ。お腹がすいていると頭が回らない。
 
 湖に映る自分を見て気がついた。ペンダントが水に映って、石が光っている。

 そうだ、確か、セシルがこれに血を垂らすと反応して場所がわかると言っていた。
 
 これだよ、これ。