「……ってことが、最近ありました。」
『えー、いじめっ子って本当に酷いことをするんだねぇ。大丈夫?頭打つと人間ってダメだって聞いたことあるよ?』

私はその日の夜、また同じように学校へ侵入し、リョーちゃんに逢いに来た。
2回目の呪文を唱えることはなく、すぐにリョーちゃんは出てきてくれて、今日起きた出来事を事細かに聞いてもらう。

「いっそのこと、死ねたら良かったんですけどね。案外、丈夫だったりするんですよね。」
『まぁ、死なれたら困っちゃうもん。無事で何よりって感じだよ?』
「困る…?」

なぜ困るんだろう……と考えていると、リョーちゃんは私の反応を見て楽しそうに笑う。

「なぜ笑うんですか?」
『いやいや、顔に書いてあるから!"何で困るんだろう?"って。築紫って表情に感情が出やすいよねぇ。見てて飽きないよ!』
「そんなこと、初めて言われました……」

胸の中がぽっと暖かくなる。
リョーちゃんは私に対して嫌なことを1度も言ったことがなく、うまく話せずに戸惑っていても急かすような仕草は見せずに、自分のタイミングで話せるようにしてくれているから、とても心地よかった。
友達ってこういう感じなのかな……と考えていると、リョーちゃんは優しそうな声色で話しかけてくる。

『ワタシたち、友達になったわけでしょ?まぁ、築紫からしたら、同じ声同じ顔で変な気分かもだけどさ!ワタシと話してたらそのうちさ、話せるようになっていじめっ子たちも分かってくれるかもよ?お母さんもさ!』

希望なんて、端から持ってもいなかったけれど、リョーちゃんと話すことでそれができるかもしれないと思ってしまう自分がいる。

「……変われるかな?」
『うん、自分が変わりたいって思えば変わることができると思うよ。』
「……ありがとうございます、リョーちゃん。」
『大丈夫!もし失敗してもさ、ワタシがいるよ!お友達のワタシがね?』

ドンっと胸を強く叩いて、ニッと笑って見せるリョーちゃん。その姿を見て、勝手に口が動く。

「私、もう少し頑張ってみます。」
『うんうん!その意気だよー!相談役だからできることは少ないけどさ、できる限りのサポートはさせてよ!』

最初は死にたいと思っていたのに、いつしかまだ生きてみるのもいいかもしれないなんて考えるようになっていた。
都市伝説で楽に死ぬことができるのなら、いっそのことこの世を去るのもありだと思っていたけれど、リョーちゃんはみんながウワサをしていたような怖い都市伝説ではない。
私は、リョーちゃんに手を振るとそっと学校を抜け出して自宅へと戻った。
まずは明日、学校で話すことから始めてみよう。
親とも会った時に少しでも話してみて、怖がらずに一歩を踏み出してみよう。
そう決意をし、布団に潜り込んだ。