「見つけた。」
私はポツリと呟く。
目の前には古びた鏡が不自然にも立て掛けられていたが、一見何の変哲もないよくある鏡がそこにはあった。
鏡に映る自分自身もしっかりと視線や身体の動きを捉えていた。
辺りを見渡し、他に人がいないかを確認する。
そして、しっかりといないことが確認できると、私はウワサ通りの呪文を声に出す。
「……鏡の中に映る私、こちらの世界に来ませんか?」
1回目。
「……鏡の中に映る私、こちらの世界に来ませんか?」
2回目。
「……鏡の中に映る私、こちらの世界に来ませんか?」
3回目。
……じっと、鏡を見つめる。
だけれども、動きは何一つ変わらず普通の鏡と変わらない。
「やっぱり、ウワサはあくまでもウワサ……」
分かっていたけれどもしかしたら、この世界からいなくなれるかもしれないと心のどこかで期待していたからこそ、また訪れる明日が怖くなる。
私は、その場にしゃがみ込みそっと目を閉じた。
このままいなくなってしまえたら、どんなにいいんだろう。
『おーい、依頼主さん?泣いてんのー?』
誰かの呼び声が耳に届き、勢いよく顔を上げると同じ目線に入るけれど私とは別の動きをしているワタシが映っていた。
驚きのあまり、声を失い、尻餅をつく。
鏡の中のワタシは、心配そうに「え!大丈夫かい?」と声をかけてくれた。
「貴方……ウワサのリョキ……?」
『ん?そうそう!リョキちゃんだよー!えっと、自分の名前あんまり好きじゃないから頭文字とって【リョーちゃん】って呼んでよ!』
自身と同じ顔、同じ声をしたいわゆるドッペルゲンガーが目の前にいると不思議な気持ちになる。
私自身、こんなに明るく喋ることもないからこそ、違和感というものが拭いきれない。
「都市伝説の有名人物にそんなリョーちゃんなんて軽い名前で呼んでもいいんですか?」
『え?うん、そっちの方が仲良くなれるじゃん?だってワタシは君と仲良くしたいからね。』
ニコニコと笑いながらそんなことを言う……リョーちゃん。
私はてっきり呼び出したら最期、否応なしに鏡の中に引き摺り込まれて私という存在はリョーちゃんが代わってくれるものだとばかり考えていた。
「鏡の中に引き摺り込んで、入れ替わるんじゃないんですか?」
『え、なになに。ワタシのウワサってそんな感じなの?』
「はい。先程呼び出したように、呪文を3回唱えると……リョー、ちゃんが現れて鏡の世界に引き摺り込まれてしまうと言う都市伝説です。」
学校で出回っているウワサを教えると、大きく口を開けて笑い出すリョーちゃん。笑いすぎて目に涙まで溜めている。
『面白すぎる!君の学校の生徒たち、天才かもね!はぁー、面白い!笑っちゃったよ。』
「で、ではリョーちゃんは本当はどんな都市伝説なんですか……?」
『ん?んー……相談に乗る都市伝説的な?ほら、この鏡が現れるのには条件があるからさ♪』
その条件だけはウワサ通りのようで、リョーちゃんの浮かべた笑みが不気味に感じる。
『まぁ、とりあえず。君の名前教えてよ。』
「私は、笹竹築紫(ささたけ つくし)です。」
『へぇ、なんか植物の名前いっぱい入ってるね!すごいや!』
リョーちゃんは話すのが楽しいようで体をゆらゆらと動かしながら、私に問いかける。
『築紫、君は何で死にたいって思ってるの?』
「……学校で、いじめを受けて、家でも居場所がないから。」
『ふーん、何でいじめられてるの?』
いじめの話なんてしたくない。
でも、リョーちゃんに聞かれるとそんな感情は薄れて、ぽつりぽつりと口から言葉が溢れてくる。
「正直わからないです。でも、私は人と話すのが苦手だから、話しかけられても黙ってしまうことが多くて、気が付いた時にはいじめに遭っていたみたいな。」
『へぇ、そうなんだ。じゃあ、家で居場所がないっていうのは?』
「私の親、片親なんです。母は若くして私を産みましたが、望まない出産だったそうです。父は責任を負いたくなかったそうで現在まで音信不通。産まれてしまった私は憎い父の血が混じった、母の自由を縛る鎖にしかならなかった。それで「あんたなんか産まなきゃよかった」とか「目障りだから視界に入るな」とかよく言われて。……私、生きる価値がないんです。」
全て話が終わった時には、リョーちゃんは腕組みをして何かを考えるように眉間に皺を寄せていた。
しばらくの沈黙の後、リョーちゃんは閃いたようで手をぱちんと叩く。
『そだそだ!そうしたら、まずワタシとお友達になろー!』
「えっ?!」
『えっ?!じゃなくて、お友達!そんなしんどいって思うなら、まずワタシと仲良くしようよ。いつでもここで待ってるからさ?』
その会話をした後、私はすぐに自宅へ戻った。
母はぐっすり眠っていたので起こさないように、そっと自室へ行き布団に潜る。
目を瞑ると、いつの間にか眠っておりあっという間に登校時間になっていた。
リョーちゃんに出逢ったからと言って何かが大きく変わったわけではなかったけれど、
一度悩み事を話してからは少しだけ気持ちが楽になり、学校へ行くという苦痛が少しだけ和らいだ気がする。
私はポツリと呟く。
目の前には古びた鏡が不自然にも立て掛けられていたが、一見何の変哲もないよくある鏡がそこにはあった。
鏡に映る自分自身もしっかりと視線や身体の動きを捉えていた。
辺りを見渡し、他に人がいないかを確認する。
そして、しっかりといないことが確認できると、私はウワサ通りの呪文を声に出す。
「……鏡の中に映る私、こちらの世界に来ませんか?」
1回目。
「……鏡の中に映る私、こちらの世界に来ませんか?」
2回目。
「……鏡の中に映る私、こちらの世界に来ませんか?」
3回目。
……じっと、鏡を見つめる。
だけれども、動きは何一つ変わらず普通の鏡と変わらない。
「やっぱり、ウワサはあくまでもウワサ……」
分かっていたけれどもしかしたら、この世界からいなくなれるかもしれないと心のどこかで期待していたからこそ、また訪れる明日が怖くなる。
私は、その場にしゃがみ込みそっと目を閉じた。
このままいなくなってしまえたら、どんなにいいんだろう。
『おーい、依頼主さん?泣いてんのー?』
誰かの呼び声が耳に届き、勢いよく顔を上げると同じ目線に入るけれど私とは別の動きをしているワタシが映っていた。
驚きのあまり、声を失い、尻餅をつく。
鏡の中のワタシは、心配そうに「え!大丈夫かい?」と声をかけてくれた。
「貴方……ウワサのリョキ……?」
『ん?そうそう!リョキちゃんだよー!えっと、自分の名前あんまり好きじゃないから頭文字とって【リョーちゃん】って呼んでよ!』
自身と同じ顔、同じ声をしたいわゆるドッペルゲンガーが目の前にいると不思議な気持ちになる。
私自身、こんなに明るく喋ることもないからこそ、違和感というものが拭いきれない。
「都市伝説の有名人物にそんなリョーちゃんなんて軽い名前で呼んでもいいんですか?」
『え?うん、そっちの方が仲良くなれるじゃん?だってワタシは君と仲良くしたいからね。』
ニコニコと笑いながらそんなことを言う……リョーちゃん。
私はてっきり呼び出したら最期、否応なしに鏡の中に引き摺り込まれて私という存在はリョーちゃんが代わってくれるものだとばかり考えていた。
「鏡の中に引き摺り込んで、入れ替わるんじゃないんですか?」
『え、なになに。ワタシのウワサってそんな感じなの?』
「はい。先程呼び出したように、呪文を3回唱えると……リョー、ちゃんが現れて鏡の世界に引き摺り込まれてしまうと言う都市伝説です。」
学校で出回っているウワサを教えると、大きく口を開けて笑い出すリョーちゃん。笑いすぎて目に涙まで溜めている。
『面白すぎる!君の学校の生徒たち、天才かもね!はぁー、面白い!笑っちゃったよ。』
「で、ではリョーちゃんは本当はどんな都市伝説なんですか……?」
『ん?んー……相談に乗る都市伝説的な?ほら、この鏡が現れるのには条件があるからさ♪』
その条件だけはウワサ通りのようで、リョーちゃんの浮かべた笑みが不気味に感じる。
『まぁ、とりあえず。君の名前教えてよ。』
「私は、笹竹築紫(ささたけ つくし)です。」
『へぇ、なんか植物の名前いっぱい入ってるね!すごいや!』
リョーちゃんは話すのが楽しいようで体をゆらゆらと動かしながら、私に問いかける。
『築紫、君は何で死にたいって思ってるの?』
「……学校で、いじめを受けて、家でも居場所がないから。」
『ふーん、何でいじめられてるの?』
いじめの話なんてしたくない。
でも、リョーちゃんに聞かれるとそんな感情は薄れて、ぽつりぽつりと口から言葉が溢れてくる。
「正直わからないです。でも、私は人と話すのが苦手だから、話しかけられても黙ってしまうことが多くて、気が付いた時にはいじめに遭っていたみたいな。」
『へぇ、そうなんだ。じゃあ、家で居場所がないっていうのは?』
「私の親、片親なんです。母は若くして私を産みましたが、望まない出産だったそうです。父は責任を負いたくなかったそうで現在まで音信不通。産まれてしまった私は憎い父の血が混じった、母の自由を縛る鎖にしかならなかった。それで「あんたなんか産まなきゃよかった」とか「目障りだから視界に入るな」とかよく言われて。……私、生きる価値がないんです。」
全て話が終わった時には、リョーちゃんは腕組みをして何かを考えるように眉間に皺を寄せていた。
しばらくの沈黙の後、リョーちゃんは閃いたようで手をぱちんと叩く。
『そだそだ!そうしたら、まずワタシとお友達になろー!』
「えっ?!」
『えっ?!じゃなくて、お友達!そんなしんどいって思うなら、まずワタシと仲良くしようよ。いつでもここで待ってるからさ?』
その会話をした後、私はすぐに自宅へ戻った。
母はぐっすり眠っていたので起こさないように、そっと自室へ行き布団に潜る。
目を瞑ると、いつの間にか眠っておりあっという間に登校時間になっていた。
リョーちゃんに出逢ったからと言って何かが大きく変わったわけではなかったけれど、
一度悩み事を話してからは少しだけ気持ちが楽になり、学校へ行くという苦痛が少しだけ和らいだ気がする。



