別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～

　未来は平静を装いつつさりげなくテーブルからパソコンを片付ける。

「いや、話をしたらすぐ帰るつもりだ……未来、引っ越しでもするのか？」

　部屋を見回した和輝は案の定一瞬で部屋の違和感に気付いた。
　さすがにごまかせないと思った未来は努めて軽い調子で答える。

「あー、うん。実はね」

「俺は何も聞いていない。いつだ」

「今度の日曜、かな」

「すぐじゃないか。どこにいくつもりだ」

「……えーと」

　尋問のように畳みかけられ、だんだん声が小さくなる。

　なぜ彼はこんなに機嫌が悪いのだろう。前から引っ越した方がいいと心配していたのに報告がないと怒っているのだろうか。
　
　未来としてはこれ以上自分のことを気にかけて欲しくなくて何も言わないでいたし、引越を目前に住む家が決まっていないという状況はなおさら知られたくない。

「まさか、誰かと住むのか？」

　いよいよ低くなる声色に未来は困惑を深める。

「う、ううん、ひとりだけど」

「じゃあ、どこに引っ越すんだ？」

「……」

「未来」

　眉間に皺を寄せた和輝に睨むように見下ろされ、ゆっくりと名前を呼ばれる。