別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 今の精神状態で彼と対峙するのは気まずさといたたまれなさが過ぎる。
 そう判断した未来は和輝がシャワーから出る前に帰ってしまうことにした。

 髪もメイクもボロボロだが構っていられない。本気になると何とかなるものだ。
 これまたソファーに掛けられていた昨日の服を身に着け、速攻で身支度を終える。

(これも、早くお水につけてあげないと……)

 テーブルの上に置かれたピンクの花束を忘れずに手に取り、未来は音をたてないように扉に向かいノブに手を掛け廊下に出る。
 素早くエレベーターに乗り 『会社があるし先に家に帰ります。昨日のことは忘れてください。ありがとね!』

 こちらは気にしていないと明るく伝えるために、文末にビックリマークとニッコリ笑った絵文字を添えた。

 速足でホテルのエントランスを出ると朝日に周囲の建物が照らされていた。

(和くん、最後の我儘を聞いてくれてありがとう。お見合い相手がいい人でありますように。そして、何より和くんが幸せになりますように)

 柔らかい光に目を細めながら未来は早朝の駅へ足を向けた。