オフィスビルの中でありながら、18階と19階はフロアの真ん中に階段で繋がっており、行き来できるようになっている。そこも風通しが良いようにと考慮されているのだろう。

 未来がコーヒーを片手に一息入れていると視界の先に長身の男性をとらえた。

 彼がこうして執務スペースに現れる事は珍しい事では無いのだが、その圧倒的な存在感にいつも目を奪われてしまう。
 そう感じるのは未来だけではないらしく、特に女子社員の目が彼に惹きつけられているのがここからでも分かった。
 
 フロアの奥の方に立って何人かの社員と話をしているのは、INOSEの副社長である猪瀬和輝(いのせかずき)
 現社長猪瀬貴久の一人息子で次期社長。いわゆる『御曹司』である。
 現在32歳。180センチを超える長身でオーターメイドのブラックスーツを完璧に着こなしている。

 均整の取れた体形は幼少から空手を習い学生時代にバスケットボールをしていた事と、今も忙しい時間を縫ってジョギングをしたりジムに通っていることで作られていることを未来は知っている。