別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 容貌の美しさ、キャラを隠さない親しみやすさ、そして確かな技術力により彼を指名する客は多く、すでに予約が取り辛くなってきているらしい。

 自称恋多き乙女の雪成はアメリカから帰国する時に恋人の男性とは別れたと言っていたが、早くも次の恋人候補といい感じだと上機嫌に話してくれた。
 その気持ちの切り替えの早さに驚くと同時に羨ましいとも思う。
 自分はそれこそ馬鹿みたいひとりの男性しか見ることしかできなかったのだから。

「和くんに少しでも近づきたいと思ってINOSEに就職したけど、逆に住む世界の差をまざまざと感じちゃって。その上お見合いもするらしいし」

「お見合いねぇ、それこそ意外だわ。私てっきり……」

 雪成は優雅な仕草で頬杖を突く。

「てっきり?」
「んー、まあ御曹司はなんで今まで結婚しなかったんだろうと思って。生まれも由緒正しく、大企業の次期社長。しかもその辺の俳優顔負けのイケメン。大間のマグロでしょ。大物だけど、名うての漁師が釣りあげようと必死だったろうに」

「次期社長としての仕事が忙しいのもあったし、“彼女”のことが忘れなれなかったんじゃないかな」

「あー、例の?」