別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 内緒で入社試験を受け、内定をもらった時は本当に嬉しかった。
 報告すると、貴久も和輝も『いつの間に受けていたんだ』と驚きながらも喜んでくれた。
 
 しかし、いざ入社してみると、副社長、猪瀬和輝の圧倒的な存在感に近づきたいなんておこがましいことだと痛感した。
 
 社長を支えつつ、主導する新規事業で次々と成果を出し業界内外から注目される次期社長は人を従える能力も人格もあり、さらには麗しい容姿まで備わってる。

 これといって取り柄の無い自分との距離は何光年もあると痛感したのだ。

 それでも自分なりにやれることをやっていこうと、目の前の仕事に必死に取り組んだし、英会話や資格の勉強をした。
 事務に関しては周りから評価をもらえるようになった。そして最近では新たに営業職に挑戦しようと思っていた。

 しかし、結局和輝はお見合いするし、自分のキャリアアップは組織人事の影響とはいえお預けになってしまった。

 例えるなら和輝は競馬のG1に出走する一番人気のサラブレット、自分はそれに憧れる牧場のポニーだ。

「ポニーはかわいいけど、サラブレッドと一緒には走れないもんね」

 しばらく窓から外をぼんやりと眺めた後、未来はため息とともに呟いた。