別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 母はマンションから駅へ歩いて向かう途中、歩道に突っ込んできた車に跳ねられた。
 単純な運転操作の誤りだった。
 打ち所が悪かったらしく、病院から連絡を受けた未来が駆け付けた時にはすでに旅立っていた。
 
 何が起きたか理解できなかった。
 父は茫然自失し、親戚も近くにいない中、葬儀や後の諸々の手続きのサポートをしてくれたのは猪瀬家の人たちだった。

 貴久や美津子は『もし晶子が生きていたら親友としてすることを代わりにしているだけだから』と言い、和輝も未来が落ち着くまで傍にいてくれた。彼らのお陰で未来は何とか立っていられた。

 その後は、父と未来の二人暮らしになった。
 仕事ばかりであまり家に帰らない父は、家にいても口数が少なく、最低限の会話しか出来ない。
 母がいるのが当たり前だった園田家で父と娘が向き合うのは初めてだった。

 どう接したらいいか戸惑いもあったが、これからは少しでもこの暮らしに慣れていこうと未来は暗い顔を見せないように笑顔で父に接するように心掛けた。
 
 きっとそれが亡くなった母が望んでいることだと思ったから。