別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～

　和輝の母は、そんな親友を気遣って母と未来を嫁ぎ先の猪瀬家に頻繁に呼んでくれた。
　子供の頃の未来の記憶は父と遊んだことより猪瀬の屋敷で遊んだ思い出の方が多いくらいだ。

　大きな家に広い庭、そして優しい人たちがいる猪瀬家が子供のころから未来は大好きだった。
　和輝の母は未来が５歳のころに病気で亡くなってしまったのだが、その後も貴久や美津子に招待されて母と屋敷を訪れていた。
　　
　未来が中学２年の夏休みの事だった。

　母とマンションで昼食をとっていると、父が長期出張先の名古屋の研究所で倒れたと連絡があった。
　倒れた、と言っても職場でふらついたのを同僚たちが心配して病院に連れて行ったところ過労だったらしい。

　安静にしていれば問題ないという医師の診断だったが、念のためと連絡を受けた母は父のもとに向かう事にした。

『お母さん、私、ひとりでも大丈夫だからゆっくりお父さんの面倒見てあげなよ。たまには夫婦水入らずで数日ゆっくりしたら？』

『ふふ、ありがとうね。でも未来が心配だから様子見たらすぐに帰って来るわね。せっかくだから何かお土産買ってくるわ』

　それが未来の覚えている母との最後の会話だ。