別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～

　和輝はいつものように車から降り、アパートの玄関先まで未来を送る。
　そしていつものように眉間に皺を寄せて言う。

「何度も言っているが、ここはセキュリティが良くない。引っ越すつもりはないのか？」

「もう、随分住み続けているんだから大丈夫だって言ってるのに」

　２０歳のころから住み続けているこのアパートは開けた場所にあるし、一般のアパートよりセキュリティも整っている。そして未来の住んでいるのは３階だ。
　彼が言うほど不用心ではないと思うのだが、コンシェルジュがいるような高級マンションに住んでいる和輝には心もとなく感じるのだろう。

　何事も身の丈というものがあるのだ。未来はここで十分すぎるくらいだ。

「でも、女性の独り暮らしなんだがら用心にこしたことはないだろう」

「大丈夫だって。はい、和くん。マフラーありがとう」

　未来は首に巻かれていたマフラーを外し、軽く畳んで差し出す。
　彼は仕方ないなという顔をしながらそれを受け取った。

「じゃあ、入ったらすぐに鍵をかけろよ。おやすみ」

「うん、和くんも帰り気を付けてね。おやすみなさい」