別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 尾形と別れた未来はビルの外に出た。

 雨は降っていないものの梅雨時のジメジメした空気が体に纏いつく。
 それを振り払うように速足で東京駅へと向かった。

(失恋相手の幸せを思ってあんな風に明るく笑える尾形くんはすごいな。優しくて、強い……私もああなりたい)
 
 歩きながら未来はこれからのことを考えていた。

“お試し結婚”の期限まであと2週間を切っている。

 加奈は自分の帰国に伴い和輝との結婚話が急速に進んだと言っていた。

 和輝と同居を始めた頃とは事情が変わったのだ。お試しもなにもあったものではない。

(和くんが私にその話をしないのは、そもそも責任と同情で私を結婚するなんて言っちゃったからだよね。私に夫に相応しいか見極めろなんて言った手前もあって、期限までは家においてくれるつもりなんだろうな)

 引っ越し先の物件探しは常に頭の片隅にあったが、和輝との生活が幸せすぎて流されて忘れたふりをしていた。

 結局のところ、また図々しく和輝に甘えていたのだ。