別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

「だから、あの子に言ってやったのよ。猪瀬との縁談話があったって。それに、今日だって素知らぬ顔でINOSEで働いているのが気に入らなくて……だって私、本当に和輝さんと結婚するつもりだったもの!」

 和輝の迫力に押されたのか、加奈は5年前も今日も和輝が自分を妻に望んでいるかのように嘘を吐いたこともボロボロと話していった。

 初めて知る事実に和輝は衝撃を受ける。

(未来は俺のことを誤解していたのか? それも5年間も)

「おかしいじゃない、あんなどこにでもいるような子、和輝さんの妻にはふさわしくないわ。どう考えても私の方が勝っているのに、なんであの子が無条件で愛されるのよ」

「未来はどこにでもいる子ではありません。それに、無条件で愛されることのなにが悪い?」

「……うっ」

 和輝の低く抑えた声が凄みを与えたらしい、加奈は父親に縋り付いて黙ってしまった。

「和輝、どうした?」

 なかなか戻らない和輝と日比野親子の様子が気になったのか父が個室のドアを開けて出てくる。

「社長、急な要件ができたので後はお任せします――それから日比野社長、今後お嬢さんは猪瀬との接触を断っていただきたい。その上で僕は変わらない両社の円満な関係を望みます。それが無理であれば、残念ですが距離を取っていただいて構いません」