別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～

「僕には大事にしてきた女性がいます。彼女以外との結婚は考えられません」

　自分には未来という唯一の女性がいる。５年前に言えなかった気持ちも、今では断言できるほど強くなっている。
　
　和輝の頑なな態度に日比野社長の顔が不快気に歪む。

「君が断ったら長年続いたウチとINOSEとの関係が悪化しても？」

「構いません」
　和輝は日比野社長の言葉に間髪入れずに答えた。

　日比野楽器との取引が無くなったらINOSEはノーダメージというわけにはいかないだろう。
　しかし、付き合いが古いとはいえ日比野楽器はいくつもある大口取引先の一つにしか過ぎない。
　たとえ失ったとしても、これから展開する他の事業でそれを超える成果を上げる自信はある。

「申し訳ありませんが、お嬢さんとの結婚はできません。ご理解ください」
　
　日比野親子に向かってもう一度はっきり告げる。

　あまりにも迷いのない和輝の態度に日比野社長と加奈は唖然とした顔になる。

「大事にって、やっぱりあの子なの？　ねぇ、目を覚まして。和輝さんは騙されてるのよ。あの子は母親が亡くなったことを利
用して同情を引いているだけなのよ！」

　加奈が悔し気に吐いた言葉に和輝は目を見開く。