別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 しかし、どうやら諦められなかったらしく、5年前に日比野家からの正式に縁談が持ち込まれた。
 加奈は和輝と結婚できるなら、音楽活動は控えても構わないとまで言ってきた。もちろん和輝は加奈と結婚する気はなく、この時も丁重に断っている。

 その後加奈は突然ドイツ行きを決め、日本を発った。
 現地ではそこまで高い評価を得ているわけではないが、父親によるプロモーションが功を奏して、日本国内では“ヨーロッパで活躍した美人フルート奏者”という印象付けに成功している。

「私、結婚するなら和輝さんがいいの。猪瀬の妻を立派に務める自信はあるわ」

 加奈は言葉の通り自信満々の表情で父親の横に立っている。
 いまだに自分にこだわっていたのかと思うと和輝は思わずため息が出そうになる。

 せっつかれたのだろう。娘に甘い社長はどうしても願いを叶えてやりたいらしい。

「君にも猪瀬にとっても良いことばかりだろう。それなのに君の御父上に話しても『結婚は本人の意思に任せています』と取り合ってもらえないんだよ」

 それはそうだろう。父に和輝の意志ははっきり伝えてある。