別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 和輝に会ったらすぐに黙って父に会いに行ったことを聞くつもりでいたが、こちらに向ける眼差しと声が優しすぎてなぜか言い出せない。

「……うん、元気だったよ」

「そうか、良かった」

「お父さん、これから昔住んでたマンションに行くって。でもあのマンションには住まずに違う場所を借りるみたい」

 家族で住んでいたマンションは新しい家が決まるまでの仮住まいに過ぎず、再婚相手とは住まないそうだ。

 てっきりあのマンションで新しく所帯を持つと思っていたが『僕もそこまで無神経ではないよ。君が許してくれたら新しい家を見つけて、その後彼女を呼んで引っ越して住むつもりだった』と父は苦笑していた。

 父なりに亡き母と未来の気持を慮ってくれていたのだ。

「私、お父さんのこと勝手に誤解してたみたい」

「お父さん、少し不器用なところがあるからな――ああ来た、乗るぞ」

 快速電車がホームに入ってくるのを見て、和輝が未来の背中にそっと手を添えて促した。


 ふたりが訪れたのは東京スカイツリーのふもとにある水族館だった。