「和くんも少しお仕事が落ち着いてきて、そういうこと時考える余裕が出たのかもしれませんね」

「そうそう！　だからね、本人がその気になった今がチャンスだと思っていろいろ準備しててね」

「えっと、準備って？」

「今、お相手を見繕っているところなの。良さそうなお嬢さんがいたらすぐにお見合いさせようと思って」

「わあ、お見合いかあ。いいお相手がいるといいですね」

　乱れまくる心の内を出さないよう、何とか上辺だけ話を合わせ続ける。

　未来の心に去来したのは『ああ、とうとうこの時が来ちゃったか』という胸が詰まる感情だった。

（考えてみれば当然だよね。猪瀬家のひとり息子がいつまでも結婚しないでいるわけにもいかないし。でも、そっか、お見合い……）

　あまりのショックに、その後美津子といただいた夕食をあまり味わうことができなかった。

　夕食を終えた後、リビングで美津子とコーヒーを飲んでいると明るい声と共にこの家の当主が帰宅した。

「未来ちゃん、久しぶりだね」
　
　INOSEの社長、猪瀬貴久。
　前経営者の父から若くして社長を引き継いだにも関わらず、卓越した経営手腕でINOSEの業績を着実に成長させている。