別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~

 出棺が近づいた時だった。
 足元に小さな衝撃を感じ、見ると未来がしがみつき、泣きそうな顔でこちらを見上げていた。
 
『かずくん、かなしいの? 未来、かずくんに笑ってほしいの。どうしたらいい? あのね、未来、大きくなったらかずくんの……かずくんのお母さんになってあげるから!』

 その的外れな言葉と必死な様子がかわいらしかった。普通“大きくなったらお嫁さんになってあげる”ではないのかとつい笑ってしまった。

 きっと未来は幼いながらに和輝が母を亡くしたことを理解し、自分がお母さんになれば和輝が元気になると思ったのだろう。

『大丈夫だよ、ありがとう』
 
 笑顔を見せたつもりだったのに、自分を見つめる彼女の顔がみるみる驚いたものに変わっていく。
 その時、和輝は自分の頬が濡れていることに気が付いた。

 今まで張りつめていた心に未来の素直な言葉が小さな穴をあけ、そこから一気に悲しみの感情が涙となって吹き出したのだ。

『……っう……お母さんっ……』

 父に肩を抱かれ、祖母に手を握られながら和輝は涙を流し続けた。人前で泣いたのは後にも先にもあの時だけだ。