未来は幼い頃から母に連れられて猪瀬家を頻繁に訪れていた。
 和輝の母を始め猪瀬家の人達は未来を可愛がってくれた。
 その後、ある事情から未来は数年間“”親戚の娘〟としてこの家で暮らしたことがあったため、彼らはこうしてたまに訪れる未来を『お帰り』と言って未だに家族のように迎え入れてくれる。

「今日は金曜だから和輝も帰ってくると思うわ」

「和くんは週末くらいお屋敷でゆっくりしたいんでしょうね」

 ひとしきりスマートフォン講座が終わると、井部が出してくれた紅茶とレーズンサンドをいただきつつ雑談する。
 
 家業に入った後、和輝は屋敷を出てマンションで一人暮らしをしているが、金曜の夜から週末にかけてはここに戻ってくることが多い。

 だから未来はここを訪れる用事があるときはなるべく金曜に合わせるようにしている。

 ――それは好きな人に会いたいという単純な理由からだ。

 8才年上の和輝は物心ついた頃から未来にとって優しくて何でもできる”憧れのお兄ちゃん”だった。
 だが、成長するにつれ、憧れだけではない気持ちが徐々に混じるようになっていた。