「俺死んだら……芹奈…、1人になっちまう……」

いつだったか
海里さんの家族は芹奈ちゃんだけだ
と言っていた。

この世で唯一、血が繋がっているんだ、と。
とても自慢げに。とても嬉しそうに。

「芹奈は……1人じゃ……………なんもできねぇから…」

「うぅ……っ、」

「甘やかし……すぎたかもなぁ…」

「かいりさっ……、っ」

「でも……ほんと、かわいいんだよ…
頼む………………ももき……」

海里さんは俺の腕を静かに掴んだ。

掴んだ力はあまりに弱々しいもので悲しくなった。

だけどそれが最後の力だったのかもしれない。

海里さんの瞼が落ち始めた。

多分……焦点なんてもう
どこにも合ってなくて、
今さっき俺に向けてくれた優しい目だけが
脳裏に強くこびりついていた。

「まってくださ……っ、」

「男が…泣くな。……バカか…」

「…すみませ……、うぅ……っ、、、」

落ちていく瞼と……
浅くなっていく呼吸……
らしくない、か細い声……

ぼやける視界の中心で、
海里さんの声がかすかに響く。

「桃季…。零愛と芹奈​───────…

お前に……託していいか?」

***