私の名前はアンネローザ・オルテガモ。
 伯爵家の長女として生を受け、小さな頃から貴族としての教育を大変厳しく躾けられてまいりました。
 お父様はラクロフィーネ王国のオルテガモ伯爵、お母様は同王国の伯爵家令嬢として育ち、貴族としての矜持を大変強くお持ちになっていた方です。家族には、お父様の性格によく似た尊大な弟と、お母様によく似た気質の妹が一人ずつおりましたので、血を繋ぐといった意味で言えば、お母様は貴族女性としての義務を全うしたといっていいのでしょう。
 しかし残念ながらオルテガモ伯爵家は家格に見合うほどの財産がありませんでした。領地は長年の天候不良でやせ細り、これといった特産もなかった為、収入も先細りです。
 それでもつつましくささやかに暮らしていけば良かったのですが、そこはやはり貴族なのでしょう。見栄に社交にお金を掛けられずにはいられなかったのです。
 特にお母様が私にと選んだ大ぶりのリボンが付いたピンクのドレスは私の好みではありませんでした。あれは第二王子殿下の好みだったのです。
 スカート裾に刺しゅうの施された意匠は最新のモードなのだと教えられましたけれども、あんなに大きく高価なビーズなど不要ではないかと申し上げましたが、お母様に一蹴されました。
 あなたは第二王子妃になるのだから当然だと。
 ありえません。と、いくら反論しても届きませんでした。
 無駄な夢をあきらめて堅実に生きたいと、わずかばかりの抵抗も意味をなさないのです。そうして夜会用にまとめられた髪に手を当てて、泣きたい気持ちをぐっと抑えることしかできませんでした。
 そんな生活の中、私、アンネローザ・オルテガモはしみじみと思うようになってしまったのです。

 ――ああ庶民になりたい! と……