唖然とする麗華に流星は微笑む。

「正直、婚約を破棄したいと言われるまで、深く考えていなかった。結婚してから、君とちゃんと向き合えばいいと思っていたから」

 ドキドキと心臓が高鳴る。
(それじゃ、流星様はずっと麗華と結婚するつもりでいたの?)


「あっ……」
 ふと、流星の袖口から、包帯が見えた。

「鬼と戦ったときにね。たいしたことはないんだ」

 麗華は手のひらを包帯の上に乗せて『痛いの痛いの、飛んでいけ』と心で唱える。
 いつも小桃にやってあげているが、さすがに声に出すのは恥ずかしい。

「おまじないです」

 子ども騙しだが、せめてものお礼だ。怪我をすると母がよくやってくれた。単なるおまじないでも、これが案外効くのだ。

「どうですか?」と顔を上げると、流星が驚いた顔をしていた。

「えっ? あ、もしかして悪化しまし――」
 慌てて離そうとした手を両手で握られた。

「痛みが消えた」

「よかった」
 ほんの少しでも和らいだなら。

「君は〝手かざし〟の異能を持っていたのか」