溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~

(容認できる欠点じゃないでしょうに。どんな慰めですか)

「とにかく、私は、流星様には相応しくありませんから」
 言い捨てて歩きだした。

 意味がわからない。なぜきっぱりと切り捨てないのか。
 彼がバッサバッサと倒す鬼のように、スパッと切ればいいのだ。どうせ小百合と結ばれるのだから。

「いや、君しかいない」

 耳を疑って歩みを止めた。

「先日、あらき園出身の学生に会った。彼は君を絶賛していたよ」

 ハッと胸を打たれた。

 小説には書かれていないが、麗華は小百合に意地悪をした後、必ずあらき園に行き、罪滅ぼしのように働いていたのである。

 化粧もせずに粗末な木綿の着物を着て、袖をたすき掛けにし一生懸命働くのだ。
 そうやって、気持ちに折り合いをつけてきたのである。

「でも、どうして?」

 素直じゃない麗華は、いい人だと思われるのが恥ずかしかった。
 園の子どもたちには身分を明かしていないし、名前も〝もこ〟と偽っている。もこは、昔飼っていた犬の名前だ。

「なぜ彼が君だと知っているかって?」