溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~

 ふいに風が吹き、どこからともなく花びらが飛んできた。

 パラソルのレースの上にピンク色の花弁が落ちる。

 流星が手を伸ばし、摘まんでふぅーと吹く。
 風に乗る花びらを目で追うと、彼の向こうに青空が目に入った。

 春らしいグレーベーシュの三つ揃いを着ている彼も、眩しそうに空を見上げる。

 風になびくサラサラの髪。青空に映える清々しい風のような。
 そのくせ心を狂わせる残酷な人。

「正直に言っていいですよ。ちゃんと受け止めますから」

 なにを言われてもいいよう覚悟を決めて見上げると、流星は「正直に……」とつぶやき考えこんだ。

「君をよく知らないからな」

(いやいや、そんなはずはない)

「遠慮しないでいいですよ? 自分でも性格が悪いのは自覚していますから」

 よく思われたいという気持ちもないので、フイッと横を向いた。

「誰しも欠点はある」

(えっ? 正気ですか?)

 思いがけない発言に驚いて振り向くと、なぜか彼はにこにこと笑みを浮かべている。
 もしかして慰めているつもりなのだろうか。