溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~

「愛はないって、お前な……」

 かぶりを振る悦巳は、呆れつつも同情した。
 流星は鬼と戦うためにすべてをかけてきた男である。
 子どもの頃から友だちと遊ぶ時間もなく、剣の道を究めようと勤しんできた。
 若くして師団長になり、自分自身だけでなく隊員の命も背負って戦っている。重荷は増えるばかりで、女性と恋愛する余裕はなかっただろう。

(自由な俺とは背負うものが違うからな)
 気を取り直し、流星のグラスにワインを注ぐ。

「言葉と態度で伝えるんだ。どれほど大切に思っているか。嘘はダメだぞ?」

 流星は「うむ……」と考え込む。

「麗華さんを見て、お前が感じる印象と感想を言ってみろ」

 女性は敏感だ。自分の言葉で正直な思いでなければ相手には伝わらない。

「気に入っているところがあるだろう?」
「強いところだな」

 したり顔で答える流星に、いったいどこからどう突っ込んだものかと悦巳は呆れた。

「おい、隊員じゃないんだぞ。ほかにないのか」
「うーん。彼女をよく知らないからな」
 これじゃ本当にフラれるなと、悦巳は頭を抱えた。