溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~

『麗華という娘をよく観察しろ。兆しがあるかもしれない』
 今のところ、彼女に異能を持つ気配は見当たらないが……。

「流星、君はどうなんだ?」

 声に振り向くと、同じテーブルの子息らが興味深そうな目をして、流星を見ていた。

「荒鬼の令嬢との結婚話は進んでいるのか?」

 流星は「あぁ」と軽くうなずき、それきり口を閉ざす。
 もとより口数の少ない男であるが、あまりに短い。親友で宝石侯爵の子息である悦巳が、皆の気持ちを代弁するように笑った。

「おいおい、それだけかよ」

 彼らの会話は途中から聞いていない流星には、そう言われてもさっぱりわからない。

「なんの話だ」
「迷いはないのかって話。お前、最近小百合さんとも仲がいいだろう? 今日だってこうして来ているし」

 流星はピクリと眉を歪めた。
「仲がいい? 俺が小百合さんと?」

「そうだよ。この前は池に落ちそうになった小百合さんの手を引いて助けたし、おとといの舞踏会ではワインを被った彼女をエスコートしてる」