婚約者であるはずの彼女を見る目が語るのは、甘い囁きではなくて、またお前かと云わんばかりのうんざりした溜め息。冷えた眼差しに心が痛み、くじけそうになる。

 扇を握り、ぐっと耐えた。

「ごきげんよう。流星様」
 スカートを摘まみ丁寧に頭を下げて挨拶をする。

 返事はないが想定内だ。
 頭に残る記憶に、彼からの優しい声かけはない。

 下を向いたまま、ニッと口角を上げる。
 まだ慣れないこの顔は、美人ではあるが、くっきりとした目は目尻が上がっているし、鼻は気取ったようにツンと高い。
 悪役らしい目鼻立ちで満面の笑みを浮かべた麗華は、ゆっくりと顔を上げ彼を見据えた。

「お願いがあります。私との婚約を破棄してください」

 流星は顔色も変えないまま見つめ返してくる。

「婚約を、解消する?」
「ええ、そうです」

(ホッとしましたか?)

 返事を待つ間、彼から視線を外し会場の中に視線を巡らせた。