オムカレーを完食し、コーヒーを飲み終えると、時刻は十三時になろうとしていた。


「ただいまー!」


 元気な声と共に玄関の鐘が鳴り、遙さんと翔太くんが帰ってきた。

 ここから駅までは十分もかからないが、慰霊碑に供えるお花も探したかったので、伝票を持って席から立ち上がる。


「そろそろ行きますね。遙さんのお父様にも、ご挨拶してきます」


 帰ってきた遙さんに声をかけると、カウンターの中でおばあちゃんも立ち上がった。


「ありがとう、あの人によろしくね。気をつけて行ってらっしゃい」


 わたしは「はい」と小さく頷いて返し、レジの前で伝票を差し出した。


「お代はいいわ。あなたがここに来てくれたのも、きっとなにかの縁でしょう。今日はサービスよ」

「い、いえ、そんなわけにはいきません。ちゃんとお支払いします」

「いいのよ琴音さん。その代わりよかったらまた来て。今度はゆっくりお話しましょう」

「お姉ちゃん、ばいばい」


 少しためらったが、意固地にお金を払うのもどうかと思ったので、ここは仕方なく好意に甘えることにした。

 しかし、こう優しくされてしまうと、わたしの決心も鈍ってしまいそうになる。


「わかりました。おばあさん、遙さん、ありがとうございます。翔太くんばいばい」


 わたしはこぼれそうな涙を堪え、「行ってきます」と告げてお辞儀をすると、踵を返して店をあとにした。


 この家族ともっと早くに出会いたかった。

 そうすればなにかが変わったかもしれない。いや、変えられたかもしれない。


 思い返せば、今まで塞ぎ込んでいた自分の世界はとても狭いものだったのかもしれない。

 次こそは変わるんだと決意して、わたしは商店街を歩き始めた。