―― 二〇二九年 八月二十八日 火曜日 ――

 夢の中で濁流に飲まれて目を覚ますと、すぐに身支度を整え普段どおりに朝食を作り始めた。

 目玉焼きとベーコンをフライパンで焼きながら、レタスを水で洗い、トーストには蜂蜜をたっぷりとかけ、氷をふたつ落としたグラスにアイスコーヒーを注ぐ。

 ずっと変わらない朝食メニュー。いつか読んだ小説を真似たこのメニューが、わたしは好きだった。

 結弦が目を覚ましてふたりで暮らせるようになったら、この朝食を用意して、結弦を起こしてあげたいと思っていた。

 でも、わたしにとってそれは小説と同じ。実際に起こりえない夢物語だ。

 部屋を出ると、明けたばかりの空は雲ひとつない快晴だった。

 東の空から昇る朝日が、見慣れたはずの街の景色を見たことのないような淡い青紫に色づけている。

 ひとり旅なんてこれが初めてだ。程よい緊張に心が高揚している。

 駅に着き改札を抜けてホームに降りると、発着時刻を確認する。

 早朝といえども電車の本数はそれなりにあり、五分ほど待って都心を離れる快速電車に乗車できた。