七年前に世間を騒がせた七色ダム湖へのバス転落事故は、当時社会問題となっていた高齢ドライバーによって引き起こされた事故だった。
カーブ直前でブレーキとアクセルを踏み間違え、センターラインを飛び出してきた乗用車。
それを避けたバスはその勢いでガードレールから飛び出し、崖下のダム湖へと転落した。
乗員乗客合わせて三十五名のうち、助かったのは割れた窓から投げ出されたわたしと結弦だけで、一緒にバスに乗っていた親友の巡里美輝と、その彼氏である時永怜を含めた三十三名が亡くなった。
美輝と怜のお通夜には、マスコミと乗用車を運転していた男性も来ていた。
犠牲者の中でも若年であったわたし達への謝罪の念は、涙でぐしゃぐしゃになった顔や土下座を繰り返す姿から伝わることはあっても、それに目もくれず泣き続けている美輝の母親の姿を見ていると、早くここから去ってほしいという気持ちでいっぱいだった。
たったひとりの無自覚な悪意によって三十三名の命が奪われ、結弦の未来は閉ざされたのだ。
色鮮やかだったわたしの世界も黒い絵の具をキャンパスにひっくり返されたように、容易く色を奪われた。
みんながそれぞれ抱いていた夢。
それに向かって歩み始める決起会のような、楽しい旅になるはずだったのに……。