目を覚ますと、目の前は土砂降りだった。
自分の上にあった木が、私を雨から守ってくれていたようで、そこまでびしょびしょには濡れていなかった。
雨のせいなのか、夜だからなのか、明るかったはずのあたりは真っ暗だ。
いつの間にか、寝てしまっていたらしい。
夢を見ていた。
いや、夢、というか、夢じゃない、というか。
あの夢のせいで私はとても疲れていた。
家に帰ったら、鍵が閉まっていて中に入れなかったので、近くの公園の木の下で座り込んでいたら、こんな夢を見るなんて。
今は何時なんだろう。
早く家に帰らなきゃという気持ちと、帰りたくないという気持ちが、私の足を動かさせてくれなかった。
ずっとこのままこうしていたい。
何もしないで、誰かからなにか言われることもなく、ただそこにいるだけで、それでいい。
「あの、大丈夫ですか?」
ふと、上から声が降ってきた。
パラパラと雨が傘に当たる音がする。
暗くてよく見えないが、おそらく男の人だろう。
「……ぁ」
もう何日声を出していなかったので、声が枯れていて、言葉にならなかった。
「こんな時間まで女の子が一人でいて、親御さん心配しない?」
大丈夫です、と出かかってた言葉が一気に心の裏に引っ込んでいった。
心配、なんて言葉に私は胸をぐっと締め付けられる気持ちになる。
あの人達が私の心配なんてするわけがない。
私のことを出来損ないだ、腫れ物だなんだと罵るような人たちだ。
私と違って出来のいい妹の水菜ならともかく、あの人たちが、私の心配をするなんて、天地がひっくり返ってもありえないだろう。
黙っている私に見かねたのか、彼は口をひらいた。
「こんなに雨に濡れてたら風邪ひいちゃうね」
そう言って、彼は自分の着ていた上着を私に被せてくれた。
「……あった、かい。」
もう4月だと言うのに、今年の春は寒い。
薄着を1枚しか着ていない私は、彼の目にはどう写っただろうか。
そんなことを考えていると、まだお礼を言ってないことに気づき、あわててありがとうございます、と言う。
全く知らない人の服だったが、不思議と、いやだとは思わなかった。
「君、中学生? どこ中?」
その言葉にハッとする。
警察か学校に通報でもする気なのだろうか。
途端に焦りが私を覆う。
学校はいい。先生たちは私のことに興味がないから通報したところで何もしないだろう。
でも警察はダメだ。親に連絡がいくから。警察沙汰になったなんて聞いたら、あの人たちにどんなことをされるか分からない。
「知らない人には教えられません。」
我ながら小学生のような言葉だが、こう言えば相手もあきらめるだろう。
しかし、返ってきた言葉は予想外のものだった。
「見ず知らずの男の人の服は平気で着るのに、警戒心はむき出しだね。」
彼はふっと笑いながらいう。
なんなんだ、この人は。
優しい人だと思ったら、からかいや嫌味混じりの言葉を口にする。
私にと到底気も合わないだろう。
まぁ、私と気があってる人なんてひとりもいないのだが。
「俺は中学生だよ。中学3年生。」
君は? とは聞かれなかった。
彼なりの警戒心がむき出しな猫のようなものにたいする思いやりなのだろう。
中学生、なんだ。
対応からしてもっと大人の人だと思っていた。
しかも私と同じ歳だなんて。
同い年でもだいぶ人間性が違うものだ。
学年くらいなら言ってもいいだろうと思い、私はゆっくり口をひらく。
「私も、中学三年……です」
「なんだ。同級生なんだ。」
ふっと、今度はからかうんじゃなくて、優しそうな声色で笑った。
「その上着、あげるよ。もう10時だから早く帰った方がいいよ。補導されないようにね。バイバイ」
それだけを言い残すと彼は去っていった。
不思議な人だ。
何もかもを濡らすまで、雨は永遠に降り続く。
自分の上にあった木が、私を雨から守ってくれていたようで、そこまでびしょびしょには濡れていなかった。
雨のせいなのか、夜だからなのか、明るかったはずのあたりは真っ暗だ。
いつの間にか、寝てしまっていたらしい。
夢を見ていた。
いや、夢、というか、夢じゃない、というか。
あの夢のせいで私はとても疲れていた。
家に帰ったら、鍵が閉まっていて中に入れなかったので、近くの公園の木の下で座り込んでいたら、こんな夢を見るなんて。
今は何時なんだろう。
早く家に帰らなきゃという気持ちと、帰りたくないという気持ちが、私の足を動かさせてくれなかった。
ずっとこのままこうしていたい。
何もしないで、誰かからなにか言われることもなく、ただそこにいるだけで、それでいい。
「あの、大丈夫ですか?」
ふと、上から声が降ってきた。
パラパラと雨が傘に当たる音がする。
暗くてよく見えないが、おそらく男の人だろう。
「……ぁ」
もう何日声を出していなかったので、声が枯れていて、言葉にならなかった。
「こんな時間まで女の子が一人でいて、親御さん心配しない?」
大丈夫です、と出かかってた言葉が一気に心の裏に引っ込んでいった。
心配、なんて言葉に私は胸をぐっと締め付けられる気持ちになる。
あの人達が私の心配なんてするわけがない。
私のことを出来損ないだ、腫れ物だなんだと罵るような人たちだ。
私と違って出来のいい妹の水菜ならともかく、あの人たちが、私の心配をするなんて、天地がひっくり返ってもありえないだろう。
黙っている私に見かねたのか、彼は口をひらいた。
「こんなに雨に濡れてたら風邪ひいちゃうね」
そう言って、彼は自分の着ていた上着を私に被せてくれた。
「……あった、かい。」
もう4月だと言うのに、今年の春は寒い。
薄着を1枚しか着ていない私は、彼の目にはどう写っただろうか。
そんなことを考えていると、まだお礼を言ってないことに気づき、あわててありがとうございます、と言う。
全く知らない人の服だったが、不思議と、いやだとは思わなかった。
「君、中学生? どこ中?」
その言葉にハッとする。
警察か学校に通報でもする気なのだろうか。
途端に焦りが私を覆う。
学校はいい。先生たちは私のことに興味がないから通報したところで何もしないだろう。
でも警察はダメだ。親に連絡がいくから。警察沙汰になったなんて聞いたら、あの人たちにどんなことをされるか分からない。
「知らない人には教えられません。」
我ながら小学生のような言葉だが、こう言えば相手もあきらめるだろう。
しかし、返ってきた言葉は予想外のものだった。
「見ず知らずの男の人の服は平気で着るのに、警戒心はむき出しだね。」
彼はふっと笑いながらいう。
なんなんだ、この人は。
優しい人だと思ったら、からかいや嫌味混じりの言葉を口にする。
私にと到底気も合わないだろう。
まぁ、私と気があってる人なんてひとりもいないのだが。
「俺は中学生だよ。中学3年生。」
君は? とは聞かれなかった。
彼なりの警戒心がむき出しな猫のようなものにたいする思いやりなのだろう。
中学生、なんだ。
対応からしてもっと大人の人だと思っていた。
しかも私と同じ歳だなんて。
同い年でもだいぶ人間性が違うものだ。
学年くらいなら言ってもいいだろうと思い、私はゆっくり口をひらく。
「私も、中学三年……です」
「なんだ。同級生なんだ。」
ふっと、今度はからかうんじゃなくて、優しそうな声色で笑った。
「その上着、あげるよ。もう10時だから早く帰った方がいいよ。補導されないようにね。バイバイ」
それだけを言い残すと彼は去っていった。
不思議な人だ。
何もかもを濡らすまで、雨は永遠に降り続く。