「ねぇ、そこのお姉さん。可愛い顔してるね。」
しまった、と思った時にはすでに遅し。声を掛けられた方を見ると、3人の男に囲まれた。
「珍しいねぇ。ここら辺に住んでる子じゃないでしょ。女の子なんていつぶりかなぁ。」
「もう、半年は見ねぇんじゃねぇの。」
「何、もしかして、家出?」
男達が勝手に会話をし始める。私は無視を決め込む。
「…ねぇ、お兄さん達が拾ってあげようか?」
「結構です。困ってませんから。」
「そんなこと言わずにさぁ、一緒に来なって。」
そういうと、私の手首を掴む。
「やめて、離して!痛い!」
「人の厚意無駄にしちゃダメですよーって教わらなかった?」
「ホントに離して…やめて!」
「いいからコッチ来いよ!聞き分け出来ない女だなぁ!」
これ以上抵抗しても無理だと諦めかけた時、私の手首が離された。下を見ると、自分のモノじゃない、大きな影が出来ていた。何が起こったか分からないまま見上げると、
「おい、何してんだテメェら。」
ドス黒い、低い声が聞こえた。
もうそれは自分にもびっくりするような声。
「あ?なんだテメェ。」
「ちょ、お前、やめとけって。」
「は、なんで。」
取り巻きの男が相手を指差して、怯えている。
「水瀬颯人だよ。」
「は?」
「…黒豹の総長だって。」
水瀬颯人?どこかで名前を聞いたような…
恐る恐る顔を見た男達は悲鳴を上げて走って去っていった。
男達の姿が見えなくなると、水瀬颯人と呼ばれた相手がこちらに向かいあった。
そして恐る恐る顔を見る。
あっ、この人知ってる。
学年一イケメンでかっこいいと噂される、クールで人を寄せ付けないオーラを放っている、あの水瀬颯人君だった。
初めて、ちゃんと顔を見た。
ほんとに綺麗な顔立ちをしている。
「大丈夫?」
「あっ、はい。助けていただいてありがとうございました。」
「…ここ、キミみたいなコが来る場所じゃないけど。」
「そ、それは…」
「え、本当に襲われにきたわけ?悪い子だなぁ、流川さんは。」
「ち、違います!…え?」
突然、名前を呼ばれてびっくりした。
私の名前なんて知られてないと思ってたのに。
そんな驚いた顔をした私に向かって、普段の表情からは想像できない、蔓延の笑みを浮かべていた。
「学校一の絶世の美女と呼ばれている、流川美桜ちゃん。」
「え、なんで知って…」
「だって、毎日男子が噂してるから嫌でも耳に入るし。」
「私よりも可愛い子いますよ。水瀬君なんて、毎日女子の話題の的だし。」
「へぇ、俺のこと知ってるんだ。さっきの会話、聞こえてたよね?」
さっきとはまた違う、打って変わった、冷酷な顔をした。
「…はい。聞こえてました。でも、嘘だよね?まさか、水瀬君が暴走族に入ってるなんて嘘に決まってるし。」
「…嘘じゃないと言ったら?」
「え…」
ま、まさか。水瀬君は学校では優等生で先生にも関心されるような人。こんな悪いことやってるとは到底思えない。
確かに、冷静沈着で“鬼クール”という部分はそういうことの垣間見れるかも。
でも、そーいう噂はない。
「…困らせちゃったね。で、キミはここで何してるの?」
「え、えっと…」
「言えないなら、無理して言わなくてもいーよ。もう遅いし、家まで送るよ。」
「い、家はダメ!ほ、ほんとに大丈夫だから…お気遣いありがとう。」
「何、家出?」
「まぁ、そんなとこ。」
「珍しいね。流川さんでもそんなことするんだ。」
「…まぁね。」
「行く宛あるの?」
「うーん、これから探す。最悪、」
「野宿でもする気?」
「見つからなかったら、最終的には…」
「バカなの?はぁ…」
ため息を着いた彼は、少し黙りこくって考えた後、こう言った。
「じゃあ、攫っちゃうけど…いい?」
そういった彼の顔は、月明かりに照らされて、綺麗な顔がもっと輝いて見えた。
