「…雪乃?」
何分ぐらいだろうな。
10分?
いや、15分ぐらいかな。
突然、静かだった夜の空気が揺れる。
私の名前が呼ばれた。
振り返ると、
前会った時と同じ人が立っていた。
「もう来ないと思った」
そう言って、彼は私の隣に腰かけた。
初めて会った時と同じように。
「あ、あの、コート」
そう言って、私は、彼にコートを渡した。
「………」
なのに、なぜかコートを受け取らずに、
私の顔をじっと見て、黙り込んでしまった。
「……えっと…」
目が合った瞬間、
彼の瞳に吸い込まれそうになった私は、
すぐに目を逸らしてしまった。
何だろうな、
どこかお父さんの瞳に
似ているような気がした。
「…死にたい…?」
「え…?」
今まで黙っていた彼から出た言葉は、
予想もしていなかった言葉だった。
「……生きるの、疲れた?」
どうしてだろう。
彼の言葉が、私の中の凍り付いた心を
優しく包み込んでくれたみたいに温かく、
私の中にスッと入ってくる。
視界がぼやけて、
彼の表情が分からなくなる。
そして、瞬きをした瞬間に、
私の頬に何か熱いものが伝わっていく。
「………生きる…理由が…ない」
私が今、
言葉にできるのはこれだけだった。

