完璧からはほど遠い

 いちいち棘をつけなければ話せない病気なのだろうか?

 それでも、その言葉が図星だと思って何も言い返せなかった。釣り合ってないって分かってたけど、好きになってしまった。

 ふふ、と高橋さんは笑う。

「大丈夫、誰にも言いませんよ。あの成瀬さんとそんな親しいなんて知られたら、女子たちに睨まれますからねー」

「あ、ありがと」

「でももうこれで分かりましたよね? 成瀬さんが本当に佐伯さんを特別に思ってたら、今日あんなにあっさり引き下がらなかったと思うんです。ちゃんと現実を見て、佐伯さんは富田さんと結婚した方がいいんじゃないですかあ? ちょっと他に目移りしやすい人みたいですけどね」

「…………」

「あ! そうだ、成瀬さんって食べ物何が好きですか?」

 笑顔で尋ねられ、たじろいだ。急に何を聞いてくるのだろう。

「それ聞いてどうするの?」

「え、どうするって。私が明日から成瀬さんにご飯作ってあげるんですよ」

「断られてたじゃない!」

 ぎょっとして言った。さっき成瀬さんはきっぱり遠慮するって言ってたはずだ。それを高橋さんも聞いていたのに、一体何を言ってるんだろう。

 しかし彼女は笑いながら、そんなことも分からないんですか、とばかりに私を見た。

「佐伯さんの前ではお願いします、って言いにくいでしょー? 成瀬さんの優しさですよ! 私は分かります。明日からはこっそり私が成瀬さんに差し入れを作って届けますね! 料理得意なんですよ。成瀬さんって何が好きなんですか?」

 そうなのか、とぼんやり思った。

 私がいる手前、高橋さんに許可を出しにくかっただけで、本当はお願いしたいと思ってたのかな。二日連続で二人でご飯に行くぐらいの関係なら、確かに高橋さんにやってほしいと思うのかもしれない。

 じゃあこれからはやっぱり、高橋さんが今まで私がやってみたいに? 成瀬さんの駄目なとことか全部この子も知るようになって、ご飯あげたり買い物に行ったりするの?

 この鞄の中に入ってる合鍵、成瀬さんに返したら、高橋さんのところに行くんだろうか。

「成瀬さんの、好物は……」

「はい!」

「なんでも、好き、みたいだよ……」

 自分で情けなくなるぐらい、小さくくぐもった声で答えた。

 カレー、だなんて、教えたくなかった。