随分親しいんだ……やっぱり、いい感じなんだろうか二人は。
告白してすっきりしよう、と意気込んでいたくせに、そんな気合は完全に消失していた。先ほどまでの勢いは一体どこへ行ったのか、私はもはや立ち直れないところにまで来ていた。
「それで……なんで佐伯さんがいるんですか? 家に入ろうとしてませんでした?」
どこか冷たい声がした。高橋さんの鋭い視線がこちらに来るのを感じる。私はどう答えようと口ごもるが、成瀬さんが冷静に答えた。
「それには理由があってね、俺はちょっと佐伯さんに頼みごとをしてるんだ」
「頼み事? それってなんですか?」
「俺仕事が終わるとすごくだらしなくてね。疲れから食事さえもさぼっちゃうくらいで。それを偶然知った佐伯さんにご飯を差し入れしてもらってるんだ。ただそれだけのこと」
淡々と説明されたそれには嘘は一つもなかった。簡潔で分かりやすい話し方。けれどその話し方は、私に追い打ちをかけるようだった。『ただそれだけのこと』。そう、ただそれだけの関係だった。特別なことは何一つない。
でも彼の口からそれを直接聞いてしまうと、もう駄目だった。お前なんか恋愛対象なんかじゃない、そう突き付けられた。
いや、何を悲しんでいるんだ。私が散々、会社の人にはバレたくないと言っていたんじゃないか。だから成瀬さんも、平穏に終わらせようとしてくれてるのに。彼と特別な関係と勘違いされたら、明日から大変だから。
「というわけで、頼みごとを聞いてもらってただけ。でも周りにばれるととやかく変な噂を流されたりしそうで嫌だったから、黙ってたんだ。だから高橋さんも悪いけど誰にも言わないでくれる?」
「なーんだ、そういうことですかあ! そうですよね、なるほどなるほど。それで佐伯さんがいたってわけですか」
高橋さんは納得したように私を見た。その視線はどこか笑いを含んでいるような、見下しているようなものだった。それを不愉快に思う余裕すらなく、私は黙っている。
「でもー成瀬さん! それってよくないですよ?」
「え?」
「佐伯さんだって忙しいんですよ? お仕事だって大変だろうし、あんまり甘えてちゃだめです。そういうのは特別な人にしてもらわないと」
わざとらしく頬を膨らませて高橋さんは言う。私は何も口を挟めない。一体どう話せばいいのか全然頭が回らないのだ。変な言い訳をしたら、明日会社中に言い振り回されていそうだし、平穏に終わるように成瀬さんが頑張ってくれてるのに台無しにしかねない。
成瀬さんは少し間を置いて視線を落とした。長いまつ毛がちらりと揺れる。そして声色を変えないまま答えた。
「うん、それはその通りだと思う。佐伯さんには迷惑掛けてるから」
「そうですよーもう佐伯さんにお願いするのはこれで最後にしてもらったどうですか?」
「それもそうだね。甘えすぎてたかも、ごめんね佐伯さん」
告白してすっきりしよう、と意気込んでいたくせに、そんな気合は完全に消失していた。先ほどまでの勢いは一体どこへ行ったのか、私はもはや立ち直れないところにまで来ていた。
「それで……なんで佐伯さんがいるんですか? 家に入ろうとしてませんでした?」
どこか冷たい声がした。高橋さんの鋭い視線がこちらに来るのを感じる。私はどう答えようと口ごもるが、成瀬さんが冷静に答えた。
「それには理由があってね、俺はちょっと佐伯さんに頼みごとをしてるんだ」
「頼み事? それってなんですか?」
「俺仕事が終わるとすごくだらしなくてね。疲れから食事さえもさぼっちゃうくらいで。それを偶然知った佐伯さんにご飯を差し入れしてもらってるんだ。ただそれだけのこと」
淡々と説明されたそれには嘘は一つもなかった。簡潔で分かりやすい話し方。けれどその話し方は、私に追い打ちをかけるようだった。『ただそれだけのこと』。そう、ただそれだけの関係だった。特別なことは何一つない。
でも彼の口からそれを直接聞いてしまうと、もう駄目だった。お前なんか恋愛対象なんかじゃない、そう突き付けられた。
いや、何を悲しんでいるんだ。私が散々、会社の人にはバレたくないと言っていたんじゃないか。だから成瀬さんも、平穏に終わらせようとしてくれてるのに。彼と特別な関係と勘違いされたら、明日から大変だから。
「というわけで、頼みごとを聞いてもらってただけ。でも周りにばれるととやかく変な噂を流されたりしそうで嫌だったから、黙ってたんだ。だから高橋さんも悪いけど誰にも言わないでくれる?」
「なーんだ、そういうことですかあ! そうですよね、なるほどなるほど。それで佐伯さんがいたってわけですか」
高橋さんは納得したように私を見た。その視線はどこか笑いを含んでいるような、見下しているようなものだった。それを不愉快に思う余裕すらなく、私は黙っている。
「でもー成瀬さん! それってよくないですよ?」
「え?」
「佐伯さんだって忙しいんですよ? お仕事だって大変だろうし、あんまり甘えてちゃだめです。そういうのは特別な人にしてもらわないと」
わざとらしく頬を膨らませて高橋さんは言う。私は何も口を挟めない。一体どう話せばいいのか全然頭が回らないのだ。変な言い訳をしたら、明日会社中に言い振り回されていそうだし、平穏に終わるように成瀬さんが頑張ってくれてるのに台無しにしかねない。
成瀬さんは少し間を置いて視線を落とした。長いまつ毛がちらりと揺れる。そして声色を変えないまま答えた。
「うん、それはその通りだと思う。佐伯さんには迷惑掛けてるから」
「そうですよーもう佐伯さんにお願いするのはこれで最後にしてもらったどうですか?」
「それもそうだね。甘えすぎてたかも、ごめんね佐伯さん」



