これはもしかして、また私を怒らせようとしてるんだろうか。そうとしか考えられない暴言ばかりだ。いや、この子がやった内容を知らなければ、別によくある会話に聞こえるだろう。私だけを怒らせる逸材の言葉ばかりを並べてくれる。

 イライラで血管が切れるかと思ったが、もう声を荒げたりなんかしない。せっかく成瀬さんが庇ってくれて大事にならずにすんだのに、ここで同じことを繰り返してなるものか。

「ありがとう。でもこれは私の気持ちだから。もう大和のことは好きじゃないの」

「えーあんなにかっこいいのにですか?」

「あはは、そんなにかっこいいと思うなら高橋さん付き合えば?」

 嫌味を言ったつもりだが、あちらはまるで堪えていない。考えるように顎に指を置く。

「んー富田さんもかっこいいですけど~。やっぱり成瀬さんには適わないっていうか」

 成瀬さんの名が出てきたことで、つい表情を固めた。いつだったか、今泉さんが言っていたことを思い出す。『高橋さんは絶対成瀬さんを狙ってる』……

 私の表情の変化に気づいたのだろうか。高橋さんは目を丸くしたあと、ふふっと笑った。そして面白そうに言った。

「もしかして……前成瀬さんが佐伯さんを庇うみたいなことしたから、成瀬さんに気持ちが傾いちゃってます?」

「ち、ちが」

「あれ、別に佐伯さんを庇ってたわけじゃないですよ? 私が悪かったんですもん。勘違いしない方がいいですよー佐伯さんが辛い目にあってるの見たくないんで! 富田さんを選んだ方がいいです!  成瀬さんはライバルだって多いと思うし、絶対大変ですって」

「……私は別に何とも思ってない。人のプライベートなこと、あまり首を突っ込まない方がいいよ。私は大和と結婚なんてしないから、そこだけは分かっててね、誰かに変なこと言ったりしないで」