「……困った」

 情けない声がした。とんでもない相手を好きになってしまったものだ私も。

「はあ、しょうがない。とりあえずこの関係のままいくしかないか」

 風呂でも入ろうかと立ち上がる。そこであっと思い出したのだ。カレーを持って帰ってもらう、と言ったのに、すっかり忘れていた。二日目のカレーを楽しみにしていたのに。

「まあ、明日また届ければいいか」

 そう独り言を言って浴室に向かおうとした時だ。

 部屋にインターホンの音が鳴り響いた。

 振り返る。頭に浮かんだのは勿論彼だ。カレーの存在を思い出して戻ってきたくれたのかもしれない。

 私は慌てて玄関に飛びつき、閉めたばかりの鍵を開けた。終わりかと思っていた映画に、まだ続きがあると発見した瞬間のようだった。笑顔で扉を開く。

「はい!」

 勢いよく開かれたそこに立っていたのは、成瀬さんではなかった。短髪にやや釣り目、こちらをどこか鋭い目で見ている相手を見つけた途端、私は素早く扉を閉じた。だが向こうの方が早かった、足を滑り込ませ阻害された。

「ひどっ。そんな勢いよく閉める?」

 苦笑して大和が言う。ドアスコープも覗かずに開いたことを後悔した。てっきり成瀬さんかと思い込んでいたのだ。

 力いっぱい扉を閉じていたが、あっさりとこじ開けられる。力で敵うはずがなかった。

 私は睨んで言った。

「何しに来たの」

「まだ話の途中だったから。お邪魔します」

「待って、入らないでよ!」