完璧からはほど遠い

「可愛いお店です! いいですね!」

「あ、よかった」

「わ、中も可愛い」

 足を踏み入れるとこれまたシンプルだけど可愛らしい店内だ。レジ横に置かれたピンク色のお花が映えている。おいしそうな香りがぶわっと鼻から肺に流れてくる。つい深呼吸をしてしまった。

 店内はそれなりに人が多いようだった。店員が私たちに気づき人数を確認する。まだ満席ではないようで、すぐに案内してくれた。窓際の二人用の席だった。

 私たちは向かい合って座り、メニューを開いてみる。パスタにピザ、サイドメニューもおいしそうなものが豊富だ。私は目を輝かせる。

「どれも美味しそう!」

「俺ピザ食べたいなー」

「パスタも美味しそうです!」

「佐伯さんってさ、食べるの好きなひと?」

 笑って尋ねられる。私は頭を掻いて答えた。

「まあ、そりゃ好きですよ……だから成瀬さんの生態が本当に理解できません。私は仕事が終わったら何食べようって考えて頑張るタイプですよ」

「俺も食べるのは好きだよ? 食べるまでの過程がそれ以上に嫌いなだけ」

「もう、生きる上に必要なものですよ! ほら、せっかく来たので今日はいっぱい食べましょう」

「いいね、俺ピザとパスタ両方食べよう」

「成瀬さんなら余裕ですね。私はどっちにしようかなあ」

「ピザ分けてあげるよ」

「ほんとですか? やった」

 会話が滞ることはなかった。私たちは笑いながらメニューを決めていく。それを注文し終えると、一息つくように運ばれてきた水を一口飲む。グラスをそっと置きながら、私は目の前にいる成瀬さんを盗み見た。

 整った顔。真顔は結構きりっとしたタイプだけど、笑うとクシャってなる犬顔。少し前まではこの人とはほとんど話すことがない、別世界の人間だった。それが不思議なことに、向き合って休日にランチをするなんて。

 それに一番驚いているのは、そんな成瀬さんといるとどうも肩の力が抜けてリラックスしてしまっている自分だ。見ているしかなかった、凄い先輩相手に。業務事項を伝えるしか話したことなかった、会社の人気者に。

「なに? じっと見て」

 気が付けば成瀬さんが笑ってみている。私は慌てて視線をそらした。