「佐伯さん?」

「あ、ど、どうも」

「どうした?」

「成瀬さん、ちゃんとしてるんだあ、って」

 正直な感想が漏れてしまった。彼はぷっと噴き出す。

「ははは! 言ったじゃん、俺人と約束したらちゃんと出かけられるんだよ。相手が恥かかないように、身だしなみだってそれなりにするよ」

「は、はあ、意外でした」

「正直だな」

「いつもよれよれの部屋着しか見てなかったもので……」

「そっか、そりゃしょーがないね。待たせてごめん、寒かった? 行こうか」

 成瀬さんは楽しそうに笑いながらそう言った。私は頷いて、彼の隣りに並び歩き出す。そして朝からしっかりめかしこんできた自分を褒めたのだ。やっぱりちゃんとしてきてよかった。顔面偏差値はどうしようもないけど、この成瀬さんと並ぶには最大限の努力をしたといっても過言ではない。

「佐伯さんも、普段と雰囲気違うね」

「へ!? そ、そうですか!?」

「うん可愛いね」

 そんなことをサラリと言われた私は、真っ赤になってしまった顔を隠すように首が痛くなるほど俯いた。そして家にいる成瀬さんを必死に思い出し、ドキドキした胸を落ち着かせる。

 ああ、マイナスな部分が大きくて忘れがちだけど、やっぱりこの人凄くかっこいいし目を引く。なんていうんだろう、華がある、だ。この人を惹きつけるオーラは、営業トップを維持する一つの武器なんだろうと思う。