「頭痛してきた」
 
 お礼を言うだとかランチをするだとかの前に、ちゃんとあの人と会えるのか、それすら心配なのである。




 駅まで歩き電車に乗る。しばらく揺られ、目的地までたどり着いた。私はわくわく感と不安に挟まれながら駅から降りる。待ち合わせは家具屋から一番近い出口、ここのはず。

 外に出ると、温かな暖房の空気は一気に無くなり寒さが襲う。私は人の邪魔にならないよう壁際に寄り、コートのポケットに手を突っ込んだ。マフラーに顔を埋もれさせ、成瀬さんを待つ。

 一度スマホを取り出した。特に連絡は入っていない。もしかしたら『今日は空腹で動けませんまた今度』なんてふざけたメッセージが入っているかと思っていたので安心する。いや、まだ寝てるだけかも。そしたらドタキャンの連絡すら入れることが出来ない。

 ああ、誰かと出かけるのにこんな不安を抱いたのは初めてだ。ちゃんと来るのか、来ても服装などは大丈夫なのか。成瀬さん、来れますように。あとスウェットじゃありませんように。

 痛いほど鳴る心臓を何とか落ち着かせながら立っていると、駅から出てきた女の子二人組が、何やら声を弾ませて話しているのが耳に入る。

「……だね! すごいよね」

「つい目が行っちゃったよねー」

 なんとなく気になり、視線をそちらに向ける。つい目が行く? なんだか非常に気になるワード……。

 私が彼女たちの方に首を伸ばした時、突如にゅっと視界が遮られた。目の前に整った顔が現れ、笑顔で私に声を掛けたのだ。

「ごめんね、お待たせ」

 私を覗き込んでいるのは、成瀬さんだった。

 驚きで変な声を上げてしまう。そんな私を見て、成瀬さんが笑った。

「成瀬さん!」

「ごめん、びっくりさせた?」

 子供みたいに肩を揺らす彼を見て、私は何も言葉を発せずにいた。じっとその姿を見つめてしまう。
 
 寝ぐせなんてついていなかった。風にサラリと靡く髪は跳ねずに素直に降りている。服装だって、黒を基調とした至ってセンスのいいもの達。毛玉ついてたり袖がびろんと伸びてたりしてない。私は唖然として成瀬さんを見上げる。

 そんな私を不思議そうに見下ろしている。近くを通ったあの女の子たちが、熱い視線で成瀬さんを見ていた。ああ、つい目が行くって、そっちの意味の……。