全身鏡でくまなくチェックを入れる。うん、大丈夫変なところはない。メイクだって朝早く起きてばっちり仕上げた。髪だって跳ねてないし、昨晩はちょっと高いトリートメントを使ってみた。

 時計を見て、そろそろだと鞄を持つ。そこまでしてようやく、ああなんでこんなに気合を入れているんだ自分は、とげんなりした。

 成瀬さんと出かける約束をし、その日が来てしまった。私はと言えば、昨日から落ち着かずそわそわし、朝早くから必死になって準備を行い今に至る。

 まあ、あの成瀬さんの隣りに並ぶわけだから、少しでも女として恥ずかしくないようにしたいだけだ。深い意味なんてない。

「よし、忘れ物もないしそろそろ出よう」

 やや離れた家具屋に行く予定なので、待ち合わせ場所もその近くにしてある。家がすぐそこなんだから別に一緒に行ってもいいけど、その間知り合いに見られたりしたら大事だ。

 二人きりで出かけるなんてもちろん初めてのこと。今日はテーブルを買って、時間を考えればどこかでランチぐらいするかもしれない。私は必ず伝えたいと思っていたことがあった。

 例の高橋さんとのことだ。私が悪役になりそうなところを、成瀬さんが庇ってくれた。あの一件について、まだしっかりお礼を言えていないのだ。当然ながら社内で言うタイミングなんてないし、あの後一度晩御飯を届けにいったけど、成瀬さんはお風呂に入っていたのでご飯だけ置いてきた。今日、ちゃんとお礼を言いたい。

  ドキドキしながら汚れの少ないお気に入りの靴を取り出し履く。普段は仕事帰りに会ったりするから、私服姿で会うことは少ない。特に成瀬さんは……

「待てよ」

 はたと止まる。朝からめかしこんだはいいものの、思えば成瀬さんの私服って見たことないぞ。いつもよれよれの部屋着でいるだけだ。私は自分の顔が青くなるのを実感した。

 営業でよかった、身だしなみとか普段は気にしないから……成瀬さんはいつだったかそんなことを言っていた。あの生活ぶりを見てれば分かる、ファッションなんて興味なさそうだ。

 もしや今日とんでもない格好で来るのでは!? 気合十分は私だけで、あっちは部屋着で来たらどうしよう! そもそもあの人本当にちゃんと約束通りくるのだろうか!?