私は彼の言葉で吹っ切れた。今日だって、なんかあったの、って聞かれたその一言で随分心が軽くなってる。そういう細かな気遣いは、普段リーダーシップを発揮してる成瀬さんだ。当たり前だが、完璧な成瀬さんもめんどくさがりな成瀬さんも同一人物。

 彼は面白そうに少し笑う。

「そんなこと言われたの初めてかも」

「あ、でも限度がありますよ! 家事をちゃんとやれとはいいませんから、ご飯を注文して毎日食べるぐらいのことはできるようになってください!」

「はーい……」

 少し口を尖らせて返事をする彼に声を上げて笑った。

「じゃあまあ、それは置いといて。俺と関わってることが知られたら佐伯さんが困ることは分かった」

「分かっていただけてよかったです」

「ちょっと離れた家具屋行くか。後でサイズ測んねーとなー俺絶対やらないと思うから、カレー食い終わったら殴ってやらせて?」

「ついに私に殴らせるんですか……」

「うまいねこのカレー。どうやったらこんな美味く作れるの? めちゃくちゃうまい」

「さすがのS&Bさんですね」

 私たちは笑いながら時間を共有していく。その後、さすがに殴ることはしなかったものの、寝そべった成瀬さんの腕を引っ張ってサイズ測定をしたのは、ちょっと疲れた。

 そんな私のカバンの中で、スマホがメッセージを受信していたことに、その時は気が付かなかった。


『明日、佐伯さんにお話ししたいことがあります! よろしくお願いします 高橋』