「ふーんそんなに美味しい店なの?」

「そうですよ! 雑誌も載ってるし! 行きましょう!」

「ちなみに俺、うん万円するフルコースや高級焼き肉店より断然この弁当の方が美味しいと思ってるんだけど、本当にその店そこまで美味しいの?」

 にっこりと成瀬さんが言った。

 女子たちの笑いがぴたり、と止む。成瀬さんは腕時計を眺めながら言った。

「多分どの店も絶対このお弁当よりまずいからいらないや。
 あとごめん、弁当がなかったとしてもいかないかな。もし逆だったら嫌だもんねー、彼女が男たちに囲まれてランチしてるなんて」

「え、でも……」

「俺嫉妬深いからね。相手にしないでほしいことは自分もやりたくないから。あと食いもん粗末にする人とは飯食いたくないね。彼女は絶対しないんだよ、可愛いよねーって惚気ちゃったわ、ははは。
やべ、こんな時間だった。じゃ」

 そう言った成瀬さんは、そのまま女の子たちを見ることもなく足早に去って行ってしまった。残された子たちは、ぽかんとしてその後ろ姿を見送っている。

 私は盗み聞きしたのがバレたくなくて、成瀬さんとは反対方向に歩いてその場を離れた。

 廊下を歩きつつ、熱くなってしまった頬を手で覆う。

 ……モテてるなあ、成瀬さん。でも、あんまり気にすることないのかな。

 うん、そうだよ。一人卑屈になってたけど、彼はいつだって真っすぐ私を見てくれてるしたっぷり愛情をくれてる。私はもうちょっと、胸を張っていられるようにならなくちゃ。それこそ、成瀬さんの隣りがふさわしいと思われるように。

「今日はカレーにしよ」

 にやける顔で、私はそう小さく呟いた。