「上にこれとか」

「可愛いね!」

 とにかく可愛いしか言ってこない成瀬さんに、つい笑ってしまった。なんでも可愛いっていうけど、成瀬さん絶対分かってない。

 笑った私に、彼は不服そうにする。

「え、なに?」

「だって、成瀬さん全部可愛いって言うんですもん。女の子の服装で好みのやつとかないんですか?」

「え? うーんやたら肌を見せるとか、個性すぎるとかじゃなけりゃいいんじゃないかな」

 やっぱりなあ、と思う。自分のファッションに興味ない人は、人のファッションにも興味ないはず。成瀬さんはあまり相手の服なんて見てないのだ。

 私は手に取った服を丁寧に畳み返しながら言う。

「あまりこだわりないんですね」

「そうだなあ、言われてみれば」

「成瀬さんらしいです」

「あれ、買わないの?」

「今日はまあ、いいです」

「どれも可愛いのに」

「あはは、成瀬さんほんとどの服見ても可愛いって言う」

 笑いながら軽く言った時、彼は私が置いたばかりの服を再度手に取った。そして広げ、私に当てながらこう言った。


「俺が可愛いって言ってるのは服じゃなくて、その服を合わせた佐伯さんが可愛いって言ってんの」


……この無自覚人たらしめ。

 私は非難の意味を込めて成瀬さんを軽く睨んだ。

 当の本人は表情一つ変えず、うんうんと頷いている。


「ほら、この白いやつ特に可愛いよ」

 犬みたいな笑顔でそう言われれば、私はやや俯いて受け取るしかない。顔が熱い。成瀬さんが言う『可愛い』なんて、絶対深い意味はないって分かってるのに。

「じゃあ、これ買っておきます……」

「こっちのスカートとかは? あ、冬ってスカート寒くないの? パンツのがいいのかな」

「まあ、下にタイツとか履けば」

「俺はこっちが特に似合うと思うよ」

 この人ショップ店員だったら、めちゃくちゃ服売りまくるカリスマ店員だったかもしれない。

 私は単純な自分に呆れつつも、勧めてくれた服をしっかり手に持ってレジへ向かう羽目になったのだ。それをなんだかやたら嬉しそうについてくる成瀬さん。

「てゆうか、普段のご飯のお礼に俺が買うよ」

「え!? 何言ってるんですか、さっきお皿も買って頂きました!」

「えーだって俺が選んだのに」

「それなら成瀬さんの服は私が選んだので私が買います」

「おお、そう来たか」

「お気持ちだけ頂きます、ありがとうございます。ここで待っててください!」

 一緒にレジまで行ったら、なんだかんだ丸め込まれて支払いをされそうだと思ったので、私は慌てて彼を置いて行った。成瀬さんは素直に壁に寄り立って待っている。

 レジに並びふうと息を吐いた。そして改めて、手に持った服たちを眺めてみる。

 正直普段自分が着るものと、少しテイストが違うかもしれない。でも早く着てみたいと思ったし、逆にもったいなくて着たくないとも思った。

(困ったなあ……)

 彼の一つ一つに、こんな簡単に惑わされるなんて。