いつでも玄関に置かれたパンパンのゴミ袋。テーブルすらないリビング、水しか入ってない冷蔵庫。

 まさか自分がここに住むなんて。

「うーさむ。早く入ろう」

「はい」

「あ、やべ、コンビニ寄り忘れた」

「フライパンもないんじゃ何も作れませんしね……」

「仕方ない、何かデリバリーしよ。そうだ、今度佐伯さんの家から鍋持ってきたらさ、カレー作って」

「またカレー!!?」

 私たちは笑いながら中に入っていく。丁度一階に止まっていたエレベーターに乗り込み行き先ボタンを押す。静かに上昇する中で、私は言った。

「カレーって凄く簡単なんですよ、あ、高橋さんのやつは多分手が込んでますけど」

「そうなの?」

「何か悔しいから、今度私も手が込んだカレー作りたいです。成瀬さんは簡単でいいよって言うだろうけど、やっぱりたまには頑張りたいって言うか」

 そう私が気合を入れて言っている途中、突然口を塞がれた。

 成瀬さんが無言でキスを落としてきたせいで言葉を止められる。エレベーターの上がる音だけが耳に入ってきていた。

 彼が離れたと同時に、私は顔を熱くさせて怒る。

「成瀬さんのタイミングが分かりません!」

「え? そう? 分かりやすいよ、可愛いなって思った時」

「かわ……?」

「うん、こうやって顔赤くして怒ってるときとかね」

 そう意地悪く笑った成瀬さんは再び私に唇を押し当てた。

 全然想像と違った。

 あの普段やる気のない成瀬さんからは考えられないほど、彼は意外と恋愛に熱いし積極的だ。信じられない、ソファから離れられない彼と本当に同一人物?

 チン、と高い音がした。扉が開かれる。成瀬さんは残念そうに顔を離した。

「着くのはえーな」

「……普通だと思います」

「はは、そっか。じゃ、続きは家でってことで」

 そう笑った彼は私の手を引いてエレベーターから降りた。えらく上機嫌で、私もついつられて笑ってしまう。

 ああ、可愛いな、なんて思ってしまうから、多分もう私はもう戻れないのだ。ダメダメのくせに私を惹きつけて離さない彼の魅力に、とことん沼ってる。






最後までお付き合い頂きありがとうございました!
この後その後の二人をちょこっと載せます〜